映画「億男」を見た
※ネタバレあり※
映画「億男」を見ていた。数週間前に見ていて、高橋一生さんの顔
と、佐藤健くんがモロッコで言う「へんなつくも」がスーパー可愛
さんの「借金が貴方から生きる欲をなくしてしまったのよ」は汎用
セリフだな、ということくらいを思いながら過ごしていた。
わたしは落語「芝浜」を知らなかった。それは大変残念なことだけ
理解を10パーセントにも満たないものにしていた。そんな状態で
すらなりえない。
なんとなく気分が乗らなくて、なんとなく仕事がうまくいかなくて
普通くらいの日にしたくて、帰りの電車の中で特段の理由はないけれど「芝浜」を調べた。
ここで落語「芝浜」について簡単に説明することを許してほしい。
魚屋の勝五郎は、腕はいいものの酒好きで、仕事でも飲みすぎて失
翌日、二日酔いで起き出した勝五郎に妻、こんなに呑んで支払いを
かんむり。勝五郎は拾った財布の金のことを訴えるが、女房は、そ
い、お前さんが金欲しさのあまりに酔ったまぎれの夢に見たんだろ
五郎は家中を引っ繰り返して財布を探すが、どこにも無い。彼は愕
懸命に働いた末、三年後には表通りにいっぱしの店を構えることが
し、身代も増えた。そしてその年の大晦日の晩のことである。勝五
身をねぎらい、頭を下げる。すると妻は、三年前の財布の件につい
真相を勝五郎に話した。
あの日、勝五郎から拾った大金を見せられた妻は困惑した。十両盗
われた当時、横領が露見すれば死刑だ。長屋の大家と相談した結果
得物として役所に届け、妻は勝五郎の泥酔に乗じて「財布なぞ最初
と言いくるめる事にした。時が経っても落とし主が現れなかったた
主の勝五郎に財布の金が下げ渡されたのであった。
事実を知り、例の財布を見せられた勝五郎はしかし妻を責めること
外しそうになった自分を真人間へと立直らせてくれた妻の機転に強
懸命に頑張ってきた夫をねぎらい、久し振りに酒でもと勧める。は
郎だったが、やがておずおずと杯を手にする。「うん、そうだな、
るか」といったんは杯を口元に運ぶが、ふいに杯を置く。「よそう
いけねえ」(だいたいwikipediaより)
映画「億男」ではこの「芝浜」が要所要所で登場する。佐藤健演じ
演じる九十九は大学時代に落語研究部で一緒だった親友。そこでの
「芝浜」だった。
兄弟の作った三千万の借金の返済に苦しみ、妻子とも別居中の一男
く奔走しながら、徐々に「お金の正体」について考えていく。
映画のラスト、電車に一男が乗っていと、何事もなかったかのよ
一男に、九十九は「夢になっちゃいけねえ。」とだけ返し、電車を
ここで「芝浜」のラスト、夢になっちゃいけねえを「九十九」が言
大金を手にして舞い上がる勝五郎(一男)、勝五郎の身を案じて人
やはりこの電車のシーン、というよりはこの映画全体として、勝五
いないと受け入れた現実と、夢になってほしくない最後のオチは何
考えなければ、この映画を見たことにはならない。普通の映画だっ
上がりどころが分からなかったねなんて、言ってはいけない。
勝五郎はまじめに働けば三年で店を持つことのできる行商人だ。九
る商売人だった。勝五郎は酒で身を崩した。九十九は、何かが原因
妻は勝五郎を案じて、勝五郎に打ち首獄門にならず生きてほしいと
た革財布を隠し、最後にそっと勝五郎に差し出す。一男は九十九に
だろう?
ここからはあくまでわたしの考察でしかない。全く見当違いの話を
大金の入った革財布は一男自身だ。
金は、一男が九十九に対して抱いている「九十九は金を持ち逃げす
夢になっちゃいけねえと九十九が手を放したのは、そんな一男の「
もっと落とし込むならやっぱり「信頼」だ。何度だって書くけれど
表の芝浜と、裏の芝浜。落語「芝浜」を根底に流しながら、お互い
勝五郎と妻に見立てる。そして「道を外れないで済んだ」と喜んで
の行動で他者を救ったことに気が付いていない。
これはやはり、佐藤健と高橋一生の顔が良いだけの映画ではないぞ